発達障害には主にADHD、ASD、学習障害、精神遅滞(IQ69以下)がありますが、当院で診療しているものはADHDとASDです。

ADHD(注意欠如多動症)

注意欠如多動症は最近注目されている発達障害の一つです。

有病率は3~7%で男性のほうが多い傾向にあります。

2/3が成人になっても症状が残ります。


情報は多い方が助かりますが、ADHD、ASDの診断に知能検査(WAIS)が万能ではありませんので御注意ください。

知能検査の結果だけでADHDとは断定できません。

ADHDでは処理速度とワーキングメモリの低下が、ASDでは絵画完成低値とVIQ、PIQの乖離が認められる傾向がありますが、診断の参考になっても決定打にはなりません。(精神遅滞の除外には有用)

CAARS(ADHDの検査)やAQテスト(ASDの検査)も目安にはなるが、それだけではなく成育歴や診断基準に合致するかなど、総合的に判断します。


医師が診断する上で診断基準があります。

以下がADHDのDSM5に準じた診断基準です。

頻繁に発生する項目のみをカウント(17歳以上は5項目、それ以外は6項目必要)。


①注意障害
  

ケアレスミスが多く、詰めが甘い。

集中が続かない。

人の話を上の空。

課題を完遂せず、他の事に脱線する。

物事を段取りよく出来ない、締め切りを守れない。

面倒な事は後回し。

忘れ物、失くし物が多い。

外部刺激があると集中できない。

予定などを忘れる。

 
②多動、衝動性
  

手や足を動かしたがる。

着席すべき場面で離席する。

走り回ったり高所に登りたがる。

静かに余暇活動できない。

じっとしていられない衝動に駆られる。

おしゃべりが止まらない。

質問が終わる前に返答する。

順番が待てない。

他人の邪魔をしてしまう。

 

上記の症状のいくつかが12歳以前から存在する事、二つ以上の場面で存在する事、社会的機能を損ねている事、他の疾患の除外が診断基準です。DSM5では不注意、多動衝動ともに17歳以上は満たすべき項目が6項目から5項目に緩和されました。


幼少期の様子を把握する為に通知表などの持参を推奨しております。

 
現在は安全に使える治療薬で改善が望める為、早期診断、早期治療が大切です。
 
一般的に多動や衝動は大人になるにつれ軽くなっていく傾向にありますが、不注意は大人になっても残る傾向があります。
 
その為、「仕事が出来ない人」等という誤ったレッテルを貼られ、叱責を受けて自信喪失したり、強いストレスを感じる事で二次的な「うつ状態」や「不眠症」に繋がることもあります(二次障害)。

よく起こる臨床上ピットフォール

 
また「物忘れ」=若年性認知症と誤認されることもあります。
 
幼少期の様子やエピソードを注意深く問診することで正確な診断に繋がります。

同時並行作業や締め切りの多い仕事、綿密な仕事は不向きですが、アイディアマンな面からクリエイティブな仕事は上手くいきやすい傾向があります。

<ADHDの2つの脳機能障害>

➀実行機能の障害
前頭葉のノルアドレナリン・ドパミンの不足が原因。
不注意に関しては、注意や集中が続かず計画通り実行する事が困難。
多動衝動に関しては、抑制が利かず衝動的に行動してしまう。
・・・物事の遂行能力や自己制御能力。

②報酬系の障害
側坐核のドパミン不足が原因。
不注意に関しては、すぐに成果(報酬)が出ないと注意が逸れてしまう。
多動衝動に関しては、すぐに成果(報酬)が出ないと待つことができずに他に脱線してしまう。
・・・直ぐ得られる報酬がないと頑張れない。

 
<治療薬>

①コンサータ・・・即効性があり、飲んだその日から効果を実感できる場合もあります。

ただし12時間しか効果が持続しません。

覚醒効果があるため、朝に服用します。日中の眠気で困っている場合は効果覿面。

悠長に待っていられない、治療を急ぐ、でも効果は12時間だけでいいという場合はこちらで治療をします。

例えば「仕事の時間だけ集中していればいい」という方は向いているかもしれません。

特定医師のみ処方可能で、指定薬局でしか扱えません。(当院は処方可能であり、近くのキリン薬局さんが指定薬局です。)

 

前頭葉、側坐核、線条体において再取り込み阻害作用によりドパミン(DP)、ノルアドレナリン(NA)を増やすと考えられています。

DP=報酬系(先延ばし癖の改善、取り掛かり、最初の一歩)にも効果があります。

※報酬系に作用する為、依存のリスクがありアルコール依存症等の並存がある場合は通常使用しません。

重度のうつ病、甲状腺機能亢進症、緑内障、運動性チック、頻脈性不整脈、狭心症、褐色細胞腫の方、過度の不安緊張、興奮のある方、依存症の既往がある場合、MAO阻害剤内服中の方には処方できません。

 

ストラテラ・・・飲み始めてすぐには効果が出ませんが、効き始めたら24時間効果が持続します(効果を実感できるまで2週間~2ヶ月程度必要)。

イメージとしてはダムの水位が上がってくると効いてくるという感じです。

元々は抗うつ薬として開発が始まった経緯があり情動安定化作用があるとも言われています。

24時間効果が必要な方、例えば仕事も家事も頑張る主婦の方や、学校も塾も頑張る受験生の方はこちらが良いかもしれません。また、うつ症状が強い方、不安緊張が強い方、朝起きられずにコンサータの服用が困難な方もこちらになります。

 

NRIとして前頭葉に再取り込み阻害作用し主にノルアドレナリンを増やすと考えられています。

NA=実行機能(計画、優先順位、切り替え)の改善には効くが、DP=報酬系(先延ばし癖、我慢)の改善には弱いという面もあります。

閉塞隅角緑内障、心疾患、褐色細胞腫、MAO阻害剤(パーキンソン病の薬)内服中の方には処方できません。

CYP2D6を阻害する薬(例えばパキシル)との併用には注意が必要です。

後発医薬品が出ており安価である。剤型もカプセル、錠剤、液剤と選べる。

 

③インチュニブ・・・最も新しく承認された治療薬。

徐放剤なので割ったり砕いたりは不可。

元々は降圧剤でアドレナリンα2受容体刺激薬として幅広い症状に穏やかに効く。

コンサータがCPUを高めて処理速度を上げるとしたら、インチュニブはメモリ増設し広い視野で落ち着いて考えられる。

実行機能には効くが報酬系には弱い。その為依存は起こしにくい。

ノルアドレナリンを上げすぎないため不安緊張が強く頻脈傾向のケースに使える。

効果発現はコンサータより遅くストラテラよりやや早い。

消化器症状が少ないが口渇は起きる。

血圧が下がり眠くなる為、夜に内服が望ましい。

うつ状態、徐脈や房室ブロックに注意が必要であり過去心電図異常ある方は慎重に。


*ADHDではと言われている著名人・・・織田信長、坂本龍馬、モーツァルト、アインシュタイン、ベンジャミン・フランクリン、エジソン、ピカソ

 

ASD(自閉スペクトラム症)

 

以前アスペルガー症候群、広汎性発達障害と呼んでいたものはDSM5ではASDに統一されました。

ASDに特異的な検査としてAQテストと母親に行うPARSがあります(参考にはなりますが決定打にはなりませんので御注意ください)。

非常に噛み砕いて説明しますとASDの方は、いわゆる「空気を読む」のが苦手です。

日本的な「相手の気持ちを察する」、「以心伝心」、「阿吽の呼吸」、「アイコンタクト」といったものが苦手というわけです。 

独特の感覚過敏も認めます。臭いに敏感だったり音に敏感だったりするため、これを幻臭や幻聴と誤認され精神病と誤診されるケースもあります。

拘りや思い込みの強さから妄想性障害、統合失調症と誤診されることも少なくありません。

ASDの悪化時と統合失調症は鑑別が必要になります。

荒唐無稽で了解不能な妄想を一次妄想と言い、その場合は統合失調症である可能性が高まります。

逆に了解可能な二次妄想である場合は「妄想があるから統合失調症だ」と決めつけるのは危険です。

妄想があるという場合には一次妄想なのか二次妄想なのかを見極める必要があります。

統合失調症の診断基準でDSM5のF項目には「ASDエピソードがある場合、統合失調症の診断は特別な条件が必要である」と明記されております。

「安易に統合失調症の診断をしてはならない」という警告であると理解しています。

ASDの方は「言外の意味」を汲み取るのが苦手な為、曖昧なニュアンスを含んだ「言葉、会話」よりもきちんと明文化された「文字、メール」での伝達が向いています。

自らのマイペースを乱される不意打ちや臨機応変な対応といったものが苦手です。

その反面、自分の興味があることには非常に能力を発揮する為、一芸に秀でるといった特徴もあります。

根本的な治療薬がないため、当院では公認心理師がカウンセリングを行います。

大切なことは、得意な所を伸ばし(ストレングスモデル)、苦手な所はトレーニングまたはテンプレートでやり過ごす、もしくは最初から関与しないといった事かと思います。自分なりのマニュアル作りもカウンセリングでは行います。

一般的に接客業等の器用さやコミュニケーションスキルを要する仕事は苦手で、一人で黙々とマイペースにできるデータ入力作業や清掃等の仕事は比較的向いていると言われています。

all-rounderよりspecialistです。

DSM5ではADHDとASDは同じ「神経発達障害」というカテゴリーに入るようになりました。

「神経発達障害」は他に、精神遅滞、学習障害、チック等を包含します。

DSM5では広汎性発達障害やアスペルガー等はASDに統一されました。

以前は併存を認められなかったADHDとASDもDSM5では併存可となりました。